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アメリカ

  • 18 時間前
  • 読了時間: 4分
客観的な視点とは
客観的な視点とは

 初めてアメリカの地を踏んだ。ハーブのような樹木のいい香りがする。31歳の彼は半導体の設計作業のために本社のあるカリフォルニアにやってきた。サンフランシスコの空港でレンタカーを半年間リースした。これまた初めてのアメ車シボレーだ。シルバーの4ドアセダン。シートは燻んだ赤。古い型であるが今まで乗ってきたかのような愛着を感じる。空港から高速道路に入る。といっても料金所などは存在しない。まさにフリーウェイ。景色は映画館。片側4車線以上ある広すぎる道をゆっくり走る。70Kmのつもりが速度は70マイル(113Km)だった。こんなに速さを感じないのか。遠くには赤い山々が光って見える。後に知ったが夏は赤く、降水量のある冬は緑となるらしい。夏を終えた優しい光が後ろから車内に差し込む。ゆっくりと東に101を走る。「自由の国に来た。」それ以外感じようがない。哲学者ジョン・ロックの「生命、自由、幸福の追求」が独立宣言にある国である。生命や幸福について考えることはあるが、自由とはいったい何だろうか?


 彼の職場はアパートから車で20分ほどのところで、住宅街と思うほど高い建物はなく、街路樹や芝生と木々に囲まれた2階建てのビルだった。例のセージとかオークのような樹木系ハーブの香りもする。近くにはハイテクの会社ばかり並んでいるようだ。広いオフィスからは外の景色が全て見え、外から中は見えない目隠しガラス張りで明るくて涼しい。みんなブース(畳3畳くらいをパーティションで区切ったスペース)を持っていて集中して仕事ができる。外食はほとんどしないから中でお弁当もポテチやケーキも食べるしコーヒーやコーラも飲むし、家族や恋人の写真は必ず飾ってあるし、仕事場と言えど自分の自由な空間を大切にしている。島と言われる机を並べてる日本を思うと小さなため息がでる。少なからず他人を意識して仕事をしなければならない窮屈な空間だからだ。また、よく日本では労働時間について議論があるが、少なくとも米国のハイテク企業にはそれは無い。時間についても自由だ。目的を達成するために休日も夜中も働く。もちろん何もなければ午後3時くらいにはこっそり帰る。アメリカ人は9時5時で働いて家族を大切にする、そんな幻想はさておき、仕事はハードだ。誰も文句など言わないし誰も9時5時の正義など語らない。


 半導体はIC(Integrated Circuit)と言われている。当時はIndian & Chineseの略とさえ言われるくらいインド人と中国人の優秀なエンジニアやマーケティングが技術を牽引していた。グリーンカードを持ち、英語も上手で何不自由なく生活しているが、彼らは文化や宗教が西欧人とは違う。クリスマスやハロウィンなどは静かで、ディワリやホーリー祭や春節などは連日パーティだ。みんな粛々とそれぞれの世界を大切にしている。彼もクリスマスディナーは洋食レストランがお休みなので、インド料理や中華レストランで済ませていた。それにしても日本のようにお店をあげて違う文化のお祭り騒ぎはしない。それでいいんだ。根っこも無いのに「楽しければ良いのだ。」と頽落(たいらく)する日本人に恥ずかしさすら感じた。


 哲学者エトムント・フッサールは、「あらゆる認識は主観。その認識が正しいかどうかについて、決して客観を参照できない。」と客観性を疑問視した。人は他人とのつながりを大切にするために客観性を求める。「普通そうでしょっ!」とか「みんなそうだから。」とか客観性や傾向性に捉われ、他人にどう見られているか?ばかりが気になっている。しかし、私の抱く客観的イメージの中に本当の私も本当のあなたも本当の対象も居ない。それらは客観的真実ではなく単なる私の主観である。そのイメージは私が都合良く作ったものだからだ。イメージが悪いのではない。客観視できていると勘違いしているのが問題だ。例えば、働く時間も空間も、自らが働いているのではなく”働かされている”と客観視するならば、自由に働ける時間も空間もいらないだろう。また宗教や文化の祝日についても、自らのお祝いをするのではなく単に”楽しさを与えられる機会”と客観視するならば、何を祝っているのかなんてどうでもいいだろう。客観的とか拘ってると、自分の大切なものや他の人の純粋な心が逆に分からなくなるのではないか。


 名前を知らない人でも少し目が合うと笑顔で「ハイ!」と言ってくれるアメリカのオフィス。それ以上何か会話があるわけでは無いが、なんて主観的に他の人を解放し尊重しているか。つまりその所作が自由という語りえない言葉への敬意を表しているのだろう。隣のグループで働くフランス人のすれ違うときのウインクに慣れるのには、少々時間はかかったが。


2026年7月7日

田村滋朗

 
 
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