top of page
検索

いじめ

  • FreeMe labs.
  • 11月18日
  • 読了時間: 4分
エピジェネティクス
エピジェネティクス

人の社会生活の中で重大問題は何か?

それは、たぶん「いじめ」ではないだろうか。性別や年齢に関係なく、家庭や学校や会社はもちろん、病院や介護施設といった生命に関わる場所でも、「マウント」とか「誹謗中傷」とか「ハラスメント」や「DV」など様々なパターンのいじめが日々横行している。これらは、ストレスや承認欲求、または劣等感や嫉妬など、心が満たされない状態を逃れるために他人を踏み台にして優越感を得ようとする行為だ。満たされている人などこの世にはいないと思うのだが、心理学的にはその様な評価だ。もっと酷いのは、いじめる方がそれを「善」としているとか、いじめられる方にも「偽善」が存在するとか、神様の投稿かと思うような情報もある。


彼の右足太もも側面に手の平の跡が赤く残っていた。きれいに五本指がわかる紫と黄色が混じった赤い手の平の跡である。夕方、風呂上がりにその打痕をみつけた母親が心配そうに聞いてきた。「いやこれは、バレーボールの練習で、、、」と答えを濁すと、誰にやられたのかと怒りをあらわにしてきた。一学年上の引退した前キャプテンが、練習に参加し、どうもその先輩は彼のことが気に入らなかったらしく、体育館の裏につれていき短パンの下の素足を手のひらで思いっきり叩いた。空は赤黒く焼けていて、夕日の光も届かない暗闇で、痛いと言うより意味の分らない怖さを感じた。監督の先生もほとんど来ないし、来ても「練習の跡に水なんて飲むな」とかいうスポーツ理論もスポーツ精神についても無知な指導者だった。母親の怒りの電話で、前キャプテンは次の日、謝りにきた。しかし、驚いたことに面と向かって「悪かった、、」と一言あるやいなや、威嚇するような顔で上下に睨み付け肩を押してきた。何が理由なのか目的なのか全く分らず恐怖のあまり後ずさりし体育館隅の床を向き目から涙が落ちた。最後に前キャプテンは笑いながら「じゃっ」と片手をあげて行ってしまった。謝ってスッキリするのは、加害者側なのかとこの時悔しさと共に教えられた。何という結末か。


いじめは相手に苦痛をあたえることを手段とし、”強さ”を確認することを目的とする「負の欲動」である。加害者でも”いじめ”の理由など本当は分っていない。ターゲットを見下し”気分の悪さ”をぶつけ、少しでも自分の強さを誇示でき、気分良くなればよい。気分でいじめられてはたまらないが、被害者はいじめの理由など考えても意味は無い。というか、正義も悪もないから欲動なのだ。余談だが、友好的な気持ちなど「正の欲動」もある。だから、「それって同じ人の行為なの?」とびっくりすることがあるが、誰しも両方の欲動を持ち合わせている。ちなみにこれら正負の欲動という言葉は、かの心理学者ジークムント・フロイトがあの天才科学者アインシュタインに戦争を説明する時に使った言葉である。それにしても、欲動とはいったいなんだろうか?


作家で心理学博士の妹尾武治九大准教授は心理学決定論のなかで「エピジェネティクス」という言葉を紹介している。これは”環境的刺激”によって人の細胞内の遺伝子発現(タンパク質の合成)がオン・オフする現象をいう。タンパク質合成は神経伝達物質(躁鬱をコントロールする物質)を作り出す。つまり発現は性格そのものを変化させるほどの情報を遺伝子内に記憶させていく。故に人は暴力的な環境にいると暴力を振るう人間になり、学業が好きな環境にいると本人もそうなる。本来、人の気質や才能は先天的な遺伝子配列によるのだが、エピジェネティクスは、その気質や才能を後天的にも形成し直せるという証明となっている。言い換えると、「脳」の意識や記憶によって行動するのではなく、身体の「細胞」の記憶によって無意識に行動に至る。つまりこれが欲動だ。知性や理性ではなく、細胞の衝動なのだ。いじめの理由などわかるはずがない。生まれながらに負の欲動を助長する遺伝子発現をしていることもあろうが、環境が引き金になり得るのだから、いじめをする人の家族や組織にも責任があることになる。子供が受けた愛情や躾、会社組織の黙認主義や同調行動などは、以前はその影響を人道的な軽度な問題としていたが、現代では生理学的な重大な責任問題があるということに我々は気づかなければならない。部活で涙を流した彼の場合、バレーボール部の監督や加害者周辺の同調者達にも責任があろう。もちろんあの前キャプテンは、今なら立派に傷害罪で処罰されることになる。


誰もが、正と負の欲動を持つ。そんな他人との細胞による対立について、脳を使い正義を議論するのか?それとも、自分の置かれた環境を見直すのか?あなた自身の「細胞からの自由」を左右する。


2025年11月14日 ホールインワンの日

田村滋朗

 
 
bottom of page