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マスオさん

  • 6 時間前
  • 読了時間: 4分
無神経と心の投影
無神経と心の投影

 「思い上がり」とは違うかもしれない。

もちろんパワハラやセクハラなどの言動は悪質な犯罪であり加害者は罪を問われるわけだが、モラルハラスメント、ロジカルハラスメント、グレーエリアハラスメントなど、社会集団の中で人が人に対して抱く負の感情は思い上がった者勝ちなのか?加害者でも被害者でも、自意識過剰で無神経な方が強い。もう人と会話などしたくなくなる。まぁもともと話すのが上手くない筆者にとっては好都合な時代なのかもしれない。


 「そんな仕事やらなくていいんじゃないですか?」笑いながら冷めた顔で上司に刃向かう部下を見て「じゃー僕の方でやっておくよ。」と最終的にはお願いを引っ込める。何かと仕事を勝手に選ぶ部下にそうさせているのはある意味その上司の押しの弱さにもあるのだが、仕事のやる気のなさに呆れる。上司すら見下す無神経さに恐ろしささえ感じる。積極性や協調性が十分ではないという査定を会社に出したら、陰でモラハラと吹聴される始末だ。


 仕事関係だけで無く、家庭内や友達関係でも、人知れず「無神経病」がはびこる。無神経病とは筆者が名付けたもので、あまり医学的な精神病などと比較して欲しくは無い。単に気遣いの無い、「自意識過剰な自己中心さん」をイメージして欲しい。時として見方を換えると「おおらか」なふりもしている。自分の意見を自分で笑い飛ばすことは好きである。所謂漫才のボケ役。しかし真面目な他人からの指摘にはモラハラだとかロジハラだとか牙を剥く。相手は傷ついても自分は傷つきたくない。相性の悪い神経質な人からは、なんという狡猾かと思われるだろう。


 同僚の彼はいつも笑顔が似合う真面目な人である。同僚と言っても、年下で入社は2年早いから先輩となる。でも年上の後輩にも気負いせず自然に接してくれる。いつも人を気遣い、与えられた仕事をきちんとやり終える。ある時「今度結婚して家を建てます。」と聞いた。奥さんも同僚で幸せな結婚生活のスタートだ。みんな二人をお祝いしていろんな品物を送っていた。圧力鍋とか観葉植物とか。やっぱり人望がある。その後半年ぐらいたったときか、彼に帰り道冷やかすつもりで新婚生活を聞いてみた。夏の夕日に向かって少し俯いて浮かない表情で、堀の深い彼の顔は、西陽でもっとはっきりとし西洋の彫刻のように憂いを感じさせた。奥さんの学生時代の女友達が家に遊びにきて、「え?お父さんが隣に住んでるの?あなたマスオさんじゃない。もう少しがんばらなくちゃ。」とたばこをふかしながら笑い飛ばしたらしい。ローンも組んでみんなが暮らしやすい家を建て、なぜこの見ず知らずの女にこんなこと言われるのか?一緒に笑う以外やることが無かったと情けなさそうに教えてくれた。「でも、妻の友達だから、、、」と後で言おうにもずっと誰にも何も言えずにいる。聞いててこっちも腹立たしくなってきた。蛇足だが、そもそもマスオさんは馬鹿にされる役柄では無い。長谷川町子先生にも失礼だ。この女も完全に無神経病だ。言われる側のことは全く気遣わず思い付きで好きなことを言う。「それ失礼だろっ!」とか突っ込まれれば、即座に漫才のボケ役で「そうだよねー」とか言って自分を笑い誤魔化そうとするだろう。しかしそのくせ真面目にその言動を評価されると指摘者をモラハラ扱いだ。自分の無配慮はハラスメントではないらしい。


 さて、無神経とは何か?何の神経が無いのか?思いやる神経?気遣う神経?確かにそういった面もあるが、そんな思い上がりでも無い。自分を高く評価したりさせるわけでもないのに、わざわざいやらしく躊躇なく相手や周囲に「気に入らないところを知らしめる」のはなぜか。

 心理学者カール・グスタフ・ユングは、「大嫌いな相手の中に見いだすのはあなた自身。目を背けたくなるような自分の影を見つめ、自我を変容させていく。そんな無意識との対峙の先に成長があるならそれは楽な道では無い。」と言った。これはつまり「人は、相手を直接認識するのではなく、自分自身の心を通して認識している。」ということだ。自分の心には「真面目な自分」、「好きな自分」、「見たくない自分」など様々な自分がいて、それを相手に投影して相手を理解したり、賛同したり、否定したりする。仕事を選び上司のお願いを馬鹿にする部下や、初対面の友人の夫をマスオさん扱いし笑い飛ばす女など、本当は自分自身の投影を相手に見ているだけなのだ。無意識であるから容易ではないが、その嫌な自分の影(見たくない自分)とは対峙せず、自分を誤魔化し、刹那的に相手の影として見下す。


 そう無神経とは、見たくない自分と向き合う神経を無くしているとい言える。つまり自律という自由を放棄した姿なのだ。


2026年4月22日

田村滋朗


 
 
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